キネマの神さま仏さま② 「招待券をねだる少年」by永遠のシネマキッド

 Z少年が視線を感じた先には、おばちゃんが番台の横に立っていた。ほっそりとして粋な感じの人だった。もちろんさくら湯のおかみである。当時銭湯の入浴料はおそらく数十円だったと思う。毎日行けるほど裕福ではなかった。たぶん母親から「○○、行っといで」と言われないと行かなかったと思う。そのさくら湯のおかみから「ちょっと坊や、映画見る?招待券あげるよ」と言われたのである。その記念すべき1回目の招待券で何を観たのか…。残念ながら覚えていない。昭和40年頃の話であるから東宝の若大将シリーズか怪獣ものだったに違いない。それからというものZ少年はさくら湯に行くと銭湯のおかみに招待券をねだるのであった。純情かつ万事につけて控えめな性格の少年が、かくも積極的な行動に出るとは!
 思春期のパワーと映画の魔法は田舎の少年をめくるめく妄想の世界に誘うのであった。つづく